あゝ二十年
――やっと御下命画を完成した私のよろこび――

上村松園

あゝ二十年
――やっと御下命画を完成した私のよろこび――書籍情報

底本:「青眉抄・青眉抄拾遺」講談社
   1976(昭和51)年11月10日初版発行
   1977(昭和52)年5月31日第2刷
初出:「大毎美術 第十六巻第七号」
   1937(昭和12)年7月
入力:川山隆
校正:鈴木厚司

あゝ二十年
――やっと御下命画を完成した私のよろこび―― 5

上村松園

 私は毎朝五時には起床いたしまして、すぐ身を浄め、画室の障子をからっと明け放します。午前五時といいますと、夜色がやっと明け放れまして早晨(そうしん)の爽気(そうき)が漂うております。鳥の声が近く聞こえますが、虫などの類(たぐ)いはまだ出てまいりません。そして約三十分間障子を明け放したままにしておきまして、それからぴたりと締めてしまいます。そう致しますと、絶対に外面から虫も塵気(ちりけ)も侵して来ませんから、画室内は清浄を保つことができます。