あゝ二十年
――やっと御下命画を完成した私のよろこび――

上村松園

あゝ二十年
――やっと御下命画を完成した私のよろこび――書籍情報

底本:「青眉抄・青眉抄拾遺」講談社
   1976(昭和51)年11月10日初版発行
   1977(昭和52)年5月31日第2刷
初出:「大毎美術 第十六巻第七号」
   1937(昭和12)年7月
入力:川山隆
校正:鈴木厚司

あゝ二十年
――やっと御下命画を完成した私のよろこび―― 2

上村松園

 私がこの作品の仰せを蒙(こうむ)りましたのは、今から実に二十年もの昔のことで、それはその当時宮中に奉仕しておられました三室戸(みむろど)伯爵を経てでございました。私はそれ以来、一日も早くこの御下命の作を完成しなくてはならぬと、それこそこの二十年間、一日たりとも疎(おろそ)かに放念していたことはありませんが、何分常に他の画債に逐(お)われ通しまして、もしかそういう作品にちょっとでも手を着けようものなら、忽ち精進一途の心が二つに割れまして、つい御下命作に筆を染めかねては、一日が一月になり、一月が一年になり、二年三年五年七年と、思わぬうちに歳月が流れさり、つい今日まで延び延びになりまして、一層恐懼(きょうく)いたしておるしだいでございます。